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トントン先輩。先輩であり、直属の上司。堅物で生真面目な仕事人間というのがおそらく軍全体の共通認識だ。
そこそこ長く一緒に働いている私にも口数は少なく、資料渡す時は「これ」とか、返事も「せやな」「そうなん」くらいで会話が弾んだ試しがない。新人の頃は怖すぎて辞めるか何度も考えた。
今となってはゴーレムかモアイ像のような人という認識に落ち着いているが、そんな彼の興味深い噂を先日友人から教えてもらったのだ。
噂好きの友人は楽しそうにニヤつきながらコソコソ声でこう告げた。
「書記長って、ドーテー、なんだって」
ある昼、総統による演説のために大勢の人が広間へ集っていた。城の兵士も含め、街の小さな広間は足の踏み場に困るほど人がごった返している。
本来私たちのような書記局の人間はこういう演説には立ち会わないのだが、今回は私の書いた台本を使って頂けるそうで__台本とは言ってもあの人が台本通りに喋ってくれる事はほぼ無いしそんなつもりで書いちゃいないが__それがちょっと心配で見に来た次第だった。まさかこんなに混んでいるとは。
『あっ、すみません』
前から押されて後ろにいた人に強くぶつかってしまった。慌ててなんとか振り返って謝ったが、見慣れた顔で安心した。先輩だ。
『トントンせんぱ……わ!』
今度はトントン先輩が後ろから押されたらしくよろけてぶつかってしまった。本当に人が多くて芋を洗うかのようで、先輩とぶつかったまま動きが取れない。体格差で押し潰されてしまいそうだ。このままじゃマッシュポテトになる……。
「すまん」と先輩が気まずそうに目を逸らしながら呟くように告げた。行き場のない手を“降参”のポーズみたいに上に掲げている。人が多すぎて下ろすこともできないのだろう。
『手、上げたままじゃしんどくないですか?』
「え、まあ」
『私の頭か……肩に置いてもいいですよ。どうせならそのまま肩をほぐして頂けると。最近凝って仕方ないので』
「いや、それはちょっと」
『え、嫌ですか?』
「嫌ではないんやけど……」
『でも腕、疲れるでしょ?』
うーん、と考え込んで一向に目を合わせてくれない先輩。
やっぱり気になるんだ、女の人に触るの。大先生なんかに言ったら秒で触ると思うんだけどな。
ちょっと、からかってみたい。
『気になります?触るの』
「…………あの、え」
先輩の目線が下へと下がる。
『えっち』
ようやく目が合ったと思ったら、先輩は首あたりまで真っ赤だった。
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元青磁(プロフ) - 森。さん» ワ°……!?あばばばばありがとうございます(;▽;) (4月18日 20時) (レス) id: d3f69151ea (このIDを非表示/違反報告)
森。(プロフ) - この甘すぎずさっぱりしすぎずの距離感好きです!!! (4月18日 17時) (レス) @page20 id: 21990a494b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:元青磁 | 作成日時:2024年4月9日 4時