【WT】ホットミルクをまぜないで【短編集】 (ページ2)

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カランコロン。
その音で何となく、なかむが来たんだとわかった。そこまで広くない店内だから、ソファから少し身を乗り出せば彼の顔はすぐ見つかる。目立たない程度に手を振ればこちらに気づいたようで、彼は迷うことなくこちらへと向かってきた。

「なんか、早いね？」

『そうかな？さっき来たとこだよ。』

「ふーん、そう？」

そう言ってなかむの視線が手元のカップに落ちる。しまった、これを頼んでいたのがすっぽり頭から抜け落ちていた。もう冷めてしまっているだろうか、まだ少ししか口をつけていないそれは、もうすっかり湯気が立ち昇らなくなっている。

若干訝しげな色を瞳に添えて、なかむは私の前に座った。メニュー表を渡せば、彼は「さんきゅ」と微笑んでそれを開く。
今日は何を頼むのかな、やっぱり甘いココアとか？前に来た時には次はカプチーノ飲んでみたいって言ってたな。

ぼんやりとそんなことを考える私を横目に、なかむはもう注文を決めたらしく「すみませーん」と店員さんを呼んでいた。

「お待たせ致しました、ご注文お伺いします。」

「ホットのダージリン1つ、ストレートで。」

「かしこまりました、少々お待ちください。」

なかむはさっと注文を済ませ、メニューを片付ける。一方私は、予想になかった彼のオーダーに驚きを隠せないでいた。

ダージリン？これまで、ダージリンなんて頼んだことないのに。しかもストレート。まあ後でシュガーは沢山入れるのだろうけど。そうは言っても、普段彼が頼むドリンクに比べたらそこまで甘くはないだろう。

『珍しいね、ストレートなんて。』

「うーん、今日はちょっとすっきりしたのが飲みたくてさ。それにいつもAが飲んでるから、ちょっと飲んでみよっかなって。……まあ今日は、違うみたいだけど？」

私は返事をする代わりに、訳もなく濁った栗色をかき混ぜた。目線が上がらない。彼は、──なかむは聡い人だ。今日は甘いものの気分だった、なんて適当な嘘を吐いても、そんなのすぐにバレてしまうだろう。なかむのその一言だけで、私の事なんてもう全て見透かされてるんじゃないだろうかという錯覚にさえ陥ってしまう。

「お待たせ致しました。ダージリンでございます。」

生まれてしまった静寂を打ち破るように、商品が来る。カチャリと金属音を立てて私たちのテーブルに舞い降りたそれは澄んだ琥珀色を湛えていて、なかむの手から注がれる白砂糖は酷く輝いて見えた。